いつも行っているバーの棚に、見たことのないボトルが立っていました。
サントリーの「座」。2000年に発売され、2年ほどで姿を消したブレンデッドウイスキーです。
私はこのボトルを、白州や山崎の蒸溜所にある博物館の展示か、元チーフブレンダー・輿水精一さんの本の中でしか見たことがありませんでした。実物が目の前にあることのほうが、信じられなかった。
せっかくなので飲ませてもらいました。結論から書くと、いま売られているサントリーのウイスキーとは、まるで別のものでした。
サントリーウイスキー「座」とは
まず基本的なところから。ボトルの裏ラベルに書かれていた情報です。
- 名称|サントリーウイスキー 座
- 種類|ブレンデッドウイスキー(原材料:モルト、グレーン)
- 容量|700ml
- アルコール度数|40%
- 発売|2000年(現在は終売)
首元のラベルには「馥郁」、その下に小さく「Rich Flavour and Taste」と入っています。
裏ラベルには、この酒が何を狙って作られたのかが書かれていました。要点は2つです。
① 麦芽の殻を取り除いた原酒
通常、ウイスキーの仕込みでは麦芽を粉砕してそのまま使います。「座」は、その殻をあらかじめ取り除いてから仕込んだ原酒を使っている、と書かれていました。
殻は渋みや雑味のもとになる部分です。それを外すことで、麦そのものの旨味を前に出す狙いだったようです。
② 杉樽原酒のブレンド
そしてこちらが「座」の最大の特徴です。樽材の一部に杉を使った樽で寝かせた原酒が、ブレンドに使われています。
ウイスキーの樽といえばオークが常識です。バーボン樽、シェリー樽、そして日本ではミズナラ。杉はまず出てきません。樽で味が決まる|3種類の樽の違いにも杉は登場しません。
日本酒の世界では杉樽(樽酒)は当たり前ですが、それをウイスキーに持ち込んだ例は、ほとんど記憶にありません。
飲んだ印象
バーテンダーに勧められて、ソーダ割りでいただきました。
とにかくすっきりしている
ひと口目で驚いたのがこれです。驚くほどすっきりしている。
サントリーのウイスキーは、全体的に甘さが前に出るものが多いと思っています。角瓶も、知多も、響も、方向性は違えど「甘い」という軸は共通している。
ところが「座」にはそれがない。甘さで押してこない。ソーダで割ると、その輪郭がさらにはっきりしました。
杉の香りが、本当にある
そして裏ラベルの謳い文句が、誇張ではありませんでした。
杉の香りが、はっきり分かる。言われて探したのではなく、飲んでいて自然に立ち上がってきました。木の香りというより、もう少し清涼感のある、和の香りです。
ラベルに書いてあることが本当に出ている酒は、実はそう多くありません。ここは素直に感心しました。
サントリーらしくない
3つ並べると、結局この一言になります。
甘くない。杉が香る。すっきりしている。知らずに飲まされたら、サントリーだと当てられる自信がありません。
現行のジャパニーズウイスキーの文脈で言えば、これは完全に別ジャンルです。
なぜ2年で消えたのか
理由は分かりません。分からないので、推測は書きません。
ただ、事実として押さえておきたい背景があります。2000年前後は、日本のウイスキー消費が長い下り坂の底にあった時期です。ハイボールブームが来るのは、ここから10年近くあとの話になります。
そして皮肉なことに、いま飲むほうが「新しい」と感じる酒でした。すっきりしていて、ソーダ割りで映える。ハイボールが定着したいまの市場に出ていたら、違う結果になっていたかもしれません。
日本のウイスキーがどう歩んできたかはウイスキーの歴史|密造と偶然が生んだ琥珀色の酒にまとめました。
ボトルの存在感
最後に、味とは別の話を。
私はウイスキーを選ぶとき、ボトルのサイズやフォルム、デザインをよく見るほうです。中身と同じくらい、そこに惹かれて手に取ることがあります。
「座」のボトルは、厚みのある角瓶に、氷を思わせる不規則な凹凸が全面に入っています。ラベルは黒地に朱色の枠、中央に白く「座」の一文字。キャップは深い臙脂色。
棚に置いてあれば、まず目が行きます。実際、私が気づいたのも味ではなくこのボトルでした。
もし見かけたら
終売から20年以上が経っています。買って飲む選択肢は、現実的にはありません。
だからこの記事は、おすすめ記事ではありません。バーの棚で「座」という一文字を見かけたときに、それが何なのかを知っている状態でいてほしい、というだけの記事です。
見かけたら、頼んでみてください。すっきりしていて、杉が香ります。そして少しだけ、2000年のサントリーが何をやろうとしていたのかが分かります。
まとめ
- サントリー「座」=2000年発売、2年ほどで終売のブレンデッド(700ml / 40%)
- 麦芽の殻を除いた原酒と杉樽原酒という、2つの変わった作り
- 味は甘くない・すっきり。現行のサントリーとは別ジャンル
- 杉の香りは本当に分かる。ラベルの謳い文句ではなかった
- 終売品なので入手は困難。バーで見かけたら迷わず頼む価値がある
現行のジャパニーズを探している方はシングルモルトウイスキー完全ガイドへ。ソーダ割りで飲むならハイボールの作り方|黄金比とコツもどうぞ。
