ウイスキーは、たった3つの原料からできています。穀物・水・酵母。それだけです。それなのに、バニラのような甘さが出たり、煙の香りが立ったり、何十年もかけて熟成されたりする。この落差こそがウイスキーの面白さです。
では、シンプルな原料が、どうやってあの複雑な味に変わっていくのか。この記事ではウイスキーができるまでの6ステップを、順番に追いかけます。工程を知ると、ボトルの裏に書いてある言葉の意味がわかるようになり、味の予想もつくようになります。
ウイスキーができるまでの6ステップ
まずは全体像です。モルトウイスキー(大麦麦芽が原料のもの)を例に見ていきます。

- ①製麦(せいばく)|大麦を発芽させて、麦芽(モルト)にする
- ②糖化(とうか)|麦芽を温水と混ぜ、でんぷんを糖に変える
- ③発酵|酵母を加えて、糖をアルコールに変える
- ④蒸溜|熱してアルコールを取り出し、濃度を上げる
- ⑤熟成|樽に詰めて、何年も寝かせる
- ⑥ボトリング|加水や混合を経て、瓶に詰める
ポイントは、①〜④で「原酒の骨格」が決まり、⑤で「味わいの大部分」が決まるということ。よく「ウイスキーの味の7割は樽で決まる」と言われるのは、この⑤の影響が非常に大きいためです。
①製麦|大麦を発芽させる
大麦をそのまま発酵させることはできません。大麦の中身はでんぷんで、酵母はでんぷんを直接食べられないからです。
そこで、大麦を水に浸して発芽させます。芽が出ると、大麦の中にでんぷんを糖に変える酵素が生まれます。ちょうどいいところで熱風を当てて発芽を止め、乾燥させたものが「麦芽(モルト)」です。
この乾燥の工程でピート(泥炭)を焚くと、煙の香りが麦芽に移ります。これがアイラモルトなどの、あの独特のスモーキーさの正体です。くわしくはピートとは?スモーキーの正体と「ppm」の読み方で解説しています。
②糖化|でんぷんを糖に変える
麦芽を細かく砕き、マッシュタンと呼ばれる大きな仕込み槽で温水と混ぜます。すると麦芽の酵素が働いて、でんぷんが糖に分解されます。
できあがるのは、甘い麦のジュース。これを麦汁(ばくじゅう/ウォート)と呼びます。この時点では、まだアルコールは1滴も入っていません。
③発酵|糖をアルコールに変える
冷ました麦汁をウォッシュバックという発酵槽に移し、酵母を加えます。酵母が糖を食べてアルコールと炭酸ガスを出し、2〜4日かけてアルコール度数7〜9%程度の「もろみ(ウォッシュ)」ができます。
ここはビール作りとほぼ同じ工程です。実際、この段階のもろみは「ホップを入れないビール」に近いものだと言われます。発酵時間の長さで、フルーティーさや香りの方向性が変わるため、蒸溜所ごとの個性が出はじめるのがこの工程です。
④蒸溜|アルコールを取り出して濃くする
もろみをポットスチル(銅製の単式蒸溜器)で熱します。アルコールは水より低い温度で蒸発するので、先に気体になったアルコールを冷やして液体に戻せば、濃いお酒が取り出せる。これが蒸溜です。
モルトウイスキーでは、通常これを2回繰り返します。1回目で度数20%前後、2回目で70%前後まで上がります。
「真ん中だけ」を使うという贅沢
2回目の蒸溜で出てくる液体は、最初・中間・最後で性質が違います。
- ヘッド(前留)|刺激が強く雑味が多い。使わない
- ハート(中留)|最も質が良い部分。これだけを樽詰めする
- テール(後留)|重く雑味が出る。使わない
この「どこからどこまでをハートとするか」の判断が、蒸溜所の個性を決める重要な要素です。範囲を狭く取るほどクリーンに、広く取るほど重厚な酒質になります。
⑤熟成|樽の中で時間をかける
蒸溜したての液体(ニューポット)は無色透明で、まだ荒々しい味です。これを樽に詰めて寝かせることで、はじめてウイスキーになります。
樽の中で起きているのは、大きく3つ。
- 樽から溶け出す|バニラ、カラメル、ドライフルーツなどの香りが移り、琥珀色に色づく
- 樽から抜けていく|刺激的な成分が木を通して抜け、まろやかになる
- 樽の中で変化する|成分どうしが結びつき、複雑な香りが生まれる
毎年2%前後が蒸発して失われ、これをエンジェルズシェア(天使の分け前)と呼びます。長期熟成のウイスキーが高価なのは、それだけ量が減っているからでもあります。
どの樽を使うかで味の方向性は大きく変わります。樽で味が決まる|バーボン樽・シェリー樽・ミズナラ樽の違いで、樽ごとの違いをまとめました。
⑥ボトリング|瓶に詰める
熟成を終えた原酒は、そのままでは度数が高すぎるため、多くの場合40〜46%程度まで加水して瓶詰めされます。加水せずそのまま瓶詰めしたものがカスクストレングスです。
また、複数の樽の原酒を混ぜて味を整える作業も行われます。単一蒸溜所の原酒だけを混ぜたものがシングルモルト、複数蒸溜所のモルトとグレーンを混ぜたものがブレンデッドです。
度数と味の関係については度数40%とカスクストレングス|加水で味が変わる理由でくわしく扱っています。
工程を知ると、選び方が変わる
ここまで読むと、ボトルの表記が「ただの飾り」ではなくなります。
- 「ピーテッド」→ ①でピートを焚いた。スモーキーな味
- 「シェリーカスク」→ ⑤でシェリー樽を使った。甘く濃厚
- 「カスクストレングス」→ ⑥で加水していない。度数が高く濃い
- 「12年」→ ⑤で最低12年寝かせた原酒だけを使っている
つまり、工程がわかれば、飲む前に味の方向性がある程度わかるということです。これは店頭で選ぶときに効いてきます。
実際にどの銘柄を選べばいいかは、シングルモルトウイスキー完全ガイド|おすすめ銘柄&選び方を解説や【価格別】おすすめウイスキーランキングを参考にしてみてください。
まとめ
- ウイスキーの原料は穀物・水・酵母の3つだけ
- 製麦→糖化→発酵→蒸溜→熟成→ボトリングの6ステップでできる
- 味の骨格は蒸溜まで、味わいの大部分は熟成(樽)で決まる
- 工程を知ると、ラベルの表記から味の方向性が読めるようになる
次は、味わいを最も大きく左右する「樽」の話です。樽で味が決まる|バーボン樽・シェリー樽・ミズナラ樽の違いへ進むと、この記事の⑤がぐっと立体的になります。
